「お盆」とは、日本で長い歴史を持つ祖先を祀る行事です。8月に入ると、多くの家庭でこの伝統的な行事が行われます。
家族が一堂に会し、墓参りを行うこの期間ですが、その背景や意義について詳しく知らない方も多いかもしれません。
お盆に行うべきことや、墓参りの適切なタイミング、先祖に供えるものについて疑問を持つ方もいるでしょう。
この記事では、お盆がいつ起こり、どのような意味があるのか、そしてお盆の期間にどのように行動するかについて解説します。この知識を持って、より充実したお盆を過ごしていただければと思います。
お盆とは？
お盆は、故人や祖先の魂が霊界から現世に帰ってくる期間とされています。
この期間は、故人がかつて暮らした家で迎え入れ、彼らの冥福を祈る特別な時です。
お盆は家族が集まり、故人を供養する大切な時期でもあります。
夏の間に故人の魂を迎え、おもてなしをし、送り出す行事の期間を「お盆」と呼びます。
お盆の起源と由来
お盆の正式名称は「盂蘭盆会（うらぼんえ）」で、これは「盂蘭盆経」という仏教経典に由来します。
この言葉は、サンスクリット語の「ウラバンナ」（逆さ吊り）とペルシャ語の「ウラヴァン」（霊魂）から来ています。
この行事は、お釈迦様の弟子の一人である目連尊者が母親の魂を救うために創始したとされています。
彼の母親が苦しむ魂を救うため、お釈迦様は彼に夏の修行終了後に多くの供養をするよう教えました。これがお盆の始まりと言われています。
その後、お盆は旧暦7月15日を中心に祖先への感謝と供養の日として定着しました。
日本では、お盆を最初に実施したのは推古天皇の時代、西暦606年の飛鳥時代にさかのぼります。
新盆と旧盆の違い
一般に、お盆は8月13日から16日の期間に行われるとされていますが、地域によっては7月の新盆や8月の旧盆の時期があります。
これは明治時代の改暦によって生じたもので、それ以前は旧暦に基づいてお盆が行われていました。
それでも現在、7月の新盆は主に東京周辺の限られた地域で観察されることが多く、ほとんどの場所では8月に行われる旧盆が一般的です。
この記事では、多くの地域で一般的に行われる8月13日から16日までのお盆の時期に焦点を当てて解説します。
お盆期間中の過ごし方と行うべきこと
お盆は祖先を敬うために特別に設けられた期間であり、この時期に行うべき様々な行事がありますが、具体的にどのようなことを行うのでしょうか？
一般的には、お盆が始まる13日には迎え火を行い、祖先の魂をこの世へと招き入れます。そして、お盆が終わる16日には送り火をして、魂をあの世へと送り返します。
この間の14日と15日には、家族が集まり、同じ食事を仏様にも三度供えることが多いです。これらの食事は「仏膳」と呼ばれ、専用の食器セットが使われることが一般的です。
お盆の習慣は、居住地域や信仰する宗派によって異なるため、具体的な過ごし方も地域によって異なりますが、ここでは一般的な流れを紹介します。
お墓参りとお墓の掃除
来客を迎えるように、お盆前にはお墓の掃除を行うことが一般的です。
理想的には、お盆が始まる前日かそれ以前に、お墓をきれいにしておく必要があります。
特に初盆を迎える場合は、他の親戚も訪れる可能性があるため、8月の初旬にお墓参りと掃除を済ませておくと良いでしょう。
お墓の掃除では、硬いブラシや家庭用洗剤の使用を避け、水で濡らした雑巾で優しく拭くことが推奨されています。
また、掃除道具を放置しないようにし、使用後はしっかりと片付けることが大切です。
迎え火と送り火
お盆の始まりにあたる13日には、祖先の魂を迎えるために門前や玄関前で迎え火を焚きます。
これは、祖先の魂が迷わずにこの世に戻れるようにとの願いを込めたものです。
一方、お盆の終わりにあたる16日には、送り火を行い、過ごした日々を終えて祖先の魂をあの世へ送り返します。
これらの火は、祖先が迷わずに行き来できるように、そして平安に過ごせるようにという願いが込められています。
地域によっては、山や川で大規模な送り火を行うこともありますが、その方法は地域ごとに異なります。
盆提灯とお供えの伝統
盆提灯は、お盆の際に祖先の霊を迎え入れるために使用される灯籠であり、各地域や家庭によってさまざまな形式があります。
一般的には、迎え火や送り火と同様に、祖先の霊に道を示す目印として設置されます。
御所提灯は天井から吊るされ、大内行灯（おおうちあんどん）は床に置かれることが多く、どちらも精霊棚（盆棚）や仏壇の前に設けられます。
お盆の飾り付けとお供え物
お盆が始まると、家庭では仏壇前に精霊棚や盆棚を設け、様々なお供え物を整えます。
特に有名なのが、キュウリで作った馬とナスで作った牛です。これらは馬が速く帰ってくること、牛がゆっくりとあの世に帰ることを象徴しており、「精霊馬（しょうりょううま）」と「精霊牛（しょうりょううし）」と呼ばれます。
お供え物には、お迎え団子や水の子など、地域ごとに異なる伝統的な食品があり、祖先が好んだ食べ物を供えることも一般的です。
地域によるお盆の風習
お盆には各地で様々な行事や風習が行われています。
特に盆踊りは、祖先の霊をもてなすための伝統的な行事で、地域によって異なる形式で行われます。
盆踊りの中には、全国的に知られるものもあり、例えば長野県の「新野の盆踊り」や富山県の「おわら風の盆」などがあります。これらは地域の交流や観光の促進にも一役買っています。
日本三大盆踊りとして有名な徳島の「阿波踊り」・秋田の「西馬音内の盆踊り」・岐阜の「郡上踊り」などもありますね。
精霊流しと五山送り火
精霊流し（しょうろうながし）は、特に長崎県で見られるお盆の行事で、故人の霊を冥府に送るために精霊船（しょうろうぶね）にお供え物を乗せて海や川に流します。
この行事は、故人が無事に極楽浄土に辿り着くことを願うものです。
一方、京都では「五山送り火（ござんおくりび）」が有名で、お盆の終わりには山に大文字（だいもんじ）や船形などの火を灯して、祖先の霊をあの世へ送り出します。
お盆期間中の注意事項
お盆中にはいくつかの習慣が避けられるべきとされています。
例えば、水辺に近づくことは、古くから霊が行き来する場所とされて避けられがちです。また、お盆は「不殺生戒」の期間でもあるため、釣りや虫捕りなどの活動は控えるべきとされています。
さらに、肉や魚を食べることも本来は避けるべきですが、現代では家族が集まる機会として許容されることもあります。
お盆に不適切な花とお供え物
お盆にはお墓や仏壇に花を捧げる習慣がありますが、適さない花も存在します。
例えば、棘のあるバラや毒を持つヒガンバナ、つる性の植物などは避けるべきです。
また、強い香りのキンモクセイや死を連想させるツバキ、花粉が多いユリなども不向きとされています。
これらの花は不吉な意味を持つため、また清掃が困難であるため推奨されません。
お盆のお供えに適した花
キクやトルコキキョウ、スターチス、カーネーション、リンドウ、ハス、胡蝶蘭などはお供えに適した花とされています。
お盆に食べる料理とその風習
お団子
お盆にはお団子を供える習慣があり、その呼び名や意味は時期によって異なります。
「お迎え団子」は祖先の長旅を労わり、甘い味付けで迎えます。
「お供え団子」はお盆期間中に祖先のおやつとして供え、「送り団子」はお盆の終わりに、何もつけずに白い団子をお土産として供えます。
お盆の精進料理と天ぷら
精進料理は動物性の食材を避け、野菜や穀物を中心にした質素な料理です。
香りの強い食材や香辛料の使用も控えられます。一方で、天ぷらもお盆の定番料理として受け入れられています。
これは、天ぷらがポルトガルから日本に伝わった後、精進料理と似た扱いをされるようになったためです。特に山の幸を中心にした野菜天ぷらが人気です。
そうめんの意味と食文化
そうめんは、その手頃な価格と簡便さから普及していますが、かつては高級品とされ、特別な時期に食べる習慣がありました。
細く長いそうめんは「幸せが細く長く続く」という願いを込めてお盆に供されます。
お盆に避けるべき食材
お盆には精進料理が一般的で、肉や魚の摂取は避けられるべきとされています。
これは、仏教の「不殺生戒」から動物を殺すことが禁じられているためです。
また、五辛五葷（ごしんごくん）と呼ばれる臭いが強く辛みのある野菜も、煩悩を刺激するため避けるべきです。
お盆のお供え物のまとめ
お盆にお供えする際には、日持ちするお菓子を選ぶと良いでしょう。
仏壇にしばらく置いておけるよう、賞味期限が1～2週間のものが適しています。
派手な色のお菓子は避け、せんべい、かりんとう、饅頭、焼き菓子、羊羹、ゼリーなどが一般的ですが、故人が生前好んでいたお菓子をお供えすることも大切です。
精霊馬と精霊牛
キュウリとナスを使って作る精霊馬と精霊牛は、それぞれの植物に割り箸を刺して馬や牛に見立てます。
キュウリの精霊馬は「速く帰ってきてほしい」という願いを表し、ナスの精霊牛は「ゆっくりと帰ってほしい」という意味が込められています。
地域によっては異なる素材を使用することもあるため、地元の慣習を確認することが推奨されます。
水の子のお供え
水の子は、洗った米やキュウリ、ナスをさいの目に切ってハスの葉に盛りつけるお供え物です。
お盆には無縁仏も訪れるとされ、特に水の子はこれら無縁仏に供えられることが多いです。
この供え物は、彼らが餓鬼道（がきどう）に落ちずに済むよう、供養する意味合いが強いです。
お供え物と手土産についてのガイド
お供え物や手土産の選び方は、相手との関係や地域の慣習に応じて異なります。
一般的な価格の目安としては、手土産には2000円から5000円、仏壇へのお供え物には3000円から5000円程度が妥当です。
これはあくまで基準であり、具体的な状況に応じて調整することが推奨されます。
掛け紙の文言は、新盆や初盆の家庭には「新盆（初盆）御見舞」と記し、それ以外の場合は「御仏前」「御供」とするのが一般的です。
お菓子
手土産として最も一般的なのは菓子折りです。
個包装された日持ちするお菓子が適しており、おせんべい、ゼリー、どら焼きなどが定番です。
また、少し高級な洋菓子や地域の名産品を選ぶと、他の人と重ならず喜ばれることでしょう。
飲み物
飲み物もお供えや手土産に人気があります。
子どもがいる家庭ではフルーツジュースなどが適しています。
お線香とろうそく
仏壇へのお供え物として最も一般的なのがお線香とろうそくです。
特にお線香は、仏教で「香食（こうじき）」とされ、良い香りや煙を仏様が楽しむとされていますから、仏事に非常に適しています。
お盆の意義と食文化
お盆はご先祖様や故人を迎え、感謝とおもてなしを表す大切な期間です。
お供え物の意味や盆踊りの背景など、知られざる部分を学ぶことも多いでしょう。
また、地域によって異なる伝統的な料理を食べることも、供養として重要です。
かつては肉や魚を避ける傾向がありましたが、現代では故人が好んだ料理を楽しみ、家族が集まる機会に豊かな食事をすることが、供養としても非常に価値があるとされています。
